会社創業の動機

会社創業の動機をふりかえってみると8年前に読んだ石黒憲彦氏の文章が印象的だった。ちょっと長いが引用します。(以下引用)
夢と志と仲間―霞ヶ関官僚の本音― 第6回「自分でコントロールする人生」 (経済産業省経済産業政策局産業構造課長 石黒憲彦氏) 2002/11/20
今回は株式公開を目指すか否かに係わらず、アメリカの独立起業ブームを支えるマインドセット(考え方、志向)について論じたい。
 私は96年から99年までの米国勤務で、ニューヨーク、ワシントンを拠点に政府・議会や産業界の動向について調査や情報収集を行っていた。ある日、ロビイングや調査活動を依頼する関係にあったワシントンの大手ローファーム(法律事務所)の弁護士と夕食をともにしていたら、彼はいつものようにもの静かに「実は独立して来月からコンサルティング・ファーム(会社)を始める」と切り出した。彼はエール大学のロースクール出身の有能な中堅弁護士だが、ウォールストリートにいるような上昇志向が強く金儲けに嗅覚があって、目から鼻に抜けるような切れ味を誇るロイヤーとは全くタイプを異にする。性格が温厚誠実で信頼がおけるので個人的にも親しくなったのだが、それがゆえ「独立する」と聞いてよけい驚いた。
 「君は、上司のパートナー(法律事務所の役員)からも高く評価されている。上司と先日食事をしたときも、君のことをそのうちパートナーにするようなことを言っていたぞ。どうして一流ローファームでの地位を捨てて、個人のコンサルティング・ファームを始めるんだ。」と尋ねた。
 「自分で自分の人生をコントロールしたいんだ。このローファームでの仕事はエキサイティングだ。しかし、意に沿わない仕事もないわけではない。周りとよけいな競争をしてストレスも感じる。家内も働いていて子供の養育もある。幸い君も含めて自分に力を貸してくれる様々な人々とのネットワークもできた。ここでの経験を生かせば、家族のために十分な時間をとりながらそれなりに生活できると考えている。僕はそういう人生を選ぶことにした。」という。
 そして彼はアメリカ人に独立自尊を説いた哲学者エマーソンの名をとったコンサルティング・ファームを始めた。彼は今でもインディペンデント・コントラクターとして、古巣のローファームとも一緒に仕事している。同時に個人で調査企画業務を受託して、場合によってはほかの独立系コンサルタントとネットで仕事を回し分担し合って、一つの仕事に仕上げている。
 こうした「自分の人生を自分でコントロールするための」独立開業は、決して彼だけの専売特許ではない。起業家に対する新聞、TVインタビュー、講演、懇談でよく使われるフレーズである。統計的にもアメリカにおいては、サービス経済化の流れの中で、こうした知的な専門技能を持った者の独立起業、インディペンデント・コントラクターの数が増えている。
 彼とは仕事上の議会や政府の動き以外に、いつもアメリカ人のものの考え方、社会構造について話が及ぶ友人だったのだが、彼は身をもってそれを実践して教えてくれた。「自分でコントロールする人生」を目指すアメリカ人の独立心、家族観に感銘を受け、そしてそうした起業が決して気負ったものでもなく、静かにそして着実に行われる流れにうらやましさを感じた。
 最近、日本でもこうした感覚で起業する人が増えている。中年、熟年までの間にしっかり人的ネットワークを創り、これを一つのセイフティ・ネットとして堅実な見通しを立て静かに起業する。新しい技術や製品、サービスを以って世の中変えてみたい、社会に貢献したいという自己実現の夢や志のさらに深層に、「自分で自分の人生をコントロールしたい」という考え方がある。これだけでも立派な自己実現であり、志だと思う。こうした志による草の根ベンチャーの輩出が、「他力本願」で「寄らば大樹」の日本の企業文化を変えていく。(引用終)

石黒氏は日本もアメリカのようにだんだんマインドセットしていくだろう、と結んでいる。私はなるほどと思い指針とした。しかし実際取り組んでみると課題が多いことも痛感するのである。これについては次回触れようと思います。